今回の壁画は新築別館(デイケアセンター)のエントランスホールに描きました。
このホールは広いガラス越しに隣接した田園と森の光景が広がり、絵画の発想もその移り変わる自然を念頭に練り、音楽の主題の中に人間賛歌を試みました。
また、この施設に納めた作品の数々が、患者さんや病院のスタッフの方々に親しんで頂いていることは、絵描きとしてこの上ない光栄でありますが、反面、未来に残る作品の作者として、大きな責任と使命を感じつつ制作にあたりました。
この作品もホールに集う人々の微笑みを誘うような空間を作り出せればと願います。
この壁画の制作に当たっては、透光苑で日々を過ごされる方々の、人生で一番楽しかった時、喜びに溢れていた時、希望に満ちていた時、一番充実していた時などを思い起こさせる内容の作品を描こうと思いました。そのため、自分の半生を振り返りつつ、構想を練りました。我が人生最大の喜びはの一つは自分の子供の無事な誕生でした。新しい生命の誕生はあまたの人々共通の喜びの一つと確信し、この作品の中心の主題としました。
また、「画面から音楽が聴こえる絵」は僕の共通の主題で、この作品もその精神で様々な演奏する人物を配しました。農村社会で生まれ育った人間として、収穫、豊作の喜びも欠かせないものでした。また、母が漁村出身で、幼い頃から,漁村は親しみのあるもので,そうした一面も加えました。
この壁画を制作していたのは夏の盛の時期で、アトリウムのガラス張りの天井から、夏の強い日光が壁面に降り注ぎ、刻々と光の帯が、舞台の照明のように位置を変え変化しました。千変万化する大自然の光の中に作品を設置するのは初めてのことでしたが、四季折々の光の変化を意識しつつ、登場人物の一人一人がより生き生きと観る人の眼に映ることを願って描きました。
この作品は有楽苑のでいつも入所の方々が行き来するロビーの空間を念頭に描きました。一面に描いた鍵盤は行き交う人がふと手を触れたくなり、また音を奏でたくなることを願って描きました。また、観る人が一緒に奏でる音楽は豊かで明るく喜びに満ちた音色であることを願いました。楽器を演奏出来ない僕はこの作品のように楽器を様々登場させる作品では、一つ一つの楽器の演奏者になった気分で描きます。
また、空間に飛ばした様々な鳥や花は楽譜のつもりで、花の季節に爽やかな風が吹き、温かい陽の光が溢れる世界を目指しました。
同じ施設内にある透光苑のアトリウムの壁画が、光溢れる中の動きのある空間構成でしたので、病院のエントランスホールに展示するこの作品は対照的な構図としました。
中心に据えたピアノは僕が長年好んで描く主題の一つです。楽器を演奏出来ない僕はピアノの鍵盤の並びや,楽譜の様々な様式が幼い頃から神秘、不可思議の対象でした。こうして作品の中に自己流の鍵盤や楽譜を描くことで、架空の演奏を繰り広げたいと考えています。
施設、地域生活支援センター サザンカの里にある絵画です。
この作品集はバッハの無伴奏チェロ組曲の第一組曲を主題に制作しました。 バッハの無伴奏チェロ組曲は、日頃我が仕事場によく流れている曲です。 ある日、街の図書館でこの曲の楽譜を観る機会がありました。 いつも耳にしているヨーヨーマの演奏の豊かさから想像すると、 音楽には全くの素人の僕には、楽譜は実にシンプルなものにみえました。 その対比に、改めて音楽の奥の深さに思いを馳せ、 そうした感慨のなかでこの作品を制作いたしました。
また、この作品集はヨーヨーマ氏の演奏に出会えなければ発想しなかったので、 この版画集を、ヨーヨーマ氏の日本でのエイジェントを経由して氏に進呈しいたしました。 約一月後、ヨーヨーマ氏から丁寧な、優しく繊細なペン書きの礼状を頂きました。 僕のつたない英文の添え書きにも、一つ一つコメントがあり、 一流のマエストロの心の広さを感じました。・・・・・・・・我が家の家宝です。
一般に音楽に親しんだ人なら楽譜を見ると「音」を想像するのでしょうが 残念ながら僕には造形的なモノとしかみえず、 そのため、作品制作の為に楽譜を写す作業も楽譜の位置で「ド、レ、ミ」と呼ぶより、 五線紙の一番上、二番目の上、一番と二番の間、上の方、下の方、などなど 自分なりの呼び方をしつつ写しました。 この方法は今でも楽譜を作品に登場させる時には使っています。
あるとき、ヴァイオリニストが我が家におみえになった時に、 この作品を観て頂き、演奏出来るものかと尋ねたところ、 おもむろに彼女が取り出した、エンリコ マルケッティなるイタリアの楽器から、 なじみ深いバッハのプレリュードの一節が、流れ出した時には感動しました。
この作品は鳥のシルエットを登場させましたが、特別深い意味はありません。 この作品を制作していた当時、僕の中に去来する様々なイメージを、 他の作品も同様に、感覚的に、自分勝手に組み合わせたものです。
僕の版画はリノカットという技法で制作しています。 小学生の図画工作の時間に使う、ゴム版を使った版画とおなじ凸版画です。 一つの版を使って、彫りと刷りを繰り返す、一版の多色刷りです。 この作品は自己流で工夫して来た一版の多色刷りの技法の様々な問題が解決して、 制作の楽しみを一層感じ始めた頃の作品です。
また、この作品は金色のインクを使っていますが、 写真ではその風合いが出ないのが残念です。
「クーラント」はヨーロッパの昔の踊りの一種ですが、 僕は春の新緑の頃のイメージを重ね制作しました。 仕事場の窓の外にある欅の木がすくすくと枝を伸ばし、 若葉をつけ始めた頃、その枝を折ってモチーフにしました。
サラバンドは古いスペインの舞曲のことですが、 僕には情熱的な響きに聴こえ、 この作品の制作にあたり、当時、観て感動した、 カナダのダンスグループ「ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス」の ルイーズ ルカヴァリエという現代舞踊のダンサーを登場させました。 彼女の踊りは舞踊とも体操ともアクロバットとも言える、 激しく、空間を引き裂く、情熱的な踊りで、深い感銘を受けました。 公演を見たのは1996年。 このルイーズ ルカヴァリエさんは、今どうされているかな?
「メヌエット」の響きの中に軽やかな楽しいものがあるので、 サーカスの曲馬を登場させました。 僕は作品のモチーフとしては、 サーカス、芸人、楽団、お祭り、等々・・・ 人工的なモノを登場させ、 自分なりの「人間讃歌」を謳いたいと思っています。 反面、美しい大自然はそのものが絶対的な世界で、 とても、我が力の及ぶものではないと思えます。
ヨーロッパの色々な紋章のデザインを参考にして、 自分なりの発想の紋章のごときものを登場させました。 楽譜の色彩と周辺の紋章の色彩を呼応させることで、 楽しいリズムが生まれることを願いました。
ピアノ
横たわるピエロ
花束とピエロ
はしれはしれ